風見鶏

「健二くん、起きて〜!」

 

朝8時、俺は起こされた。

 

「もう朝かよ…もう少し寝かせて……」

 

そう言って俺は布団にくるまり込んだ。

 

しかし、「もう!学校遅刻するよ!」と言われて、俺は布団をはがされた。

 

「やめろよ〜…寒い…」

「ほら、寒いならこれ着て!」

 

そう言って上着を差し出され、彼女は俺を見ていた。

 

「わかったよ…起きればいいんだろ!」

 

そう言って、俺は眠たい目を擦りながらベットから起き上がった。

 

もう10月に入り、外は少しずつ寒くなってきており、学校の制服はシャツから学ランに変わっていた。

 

「もう!遅刻するって!」

「わかってるって!」

 

そう言って俺は自分の部屋を出た。

 

「いつもごめんね、まゆちゃん」

「いえ、これ日課なんで!笑」

 

このやりとりは母とあゆみの間では毎日のように行われている。

 

俺からすればそのやりとりが朝の儀式のように思えてくる。

 

「ちょーありがた迷惑…」

「うるさい!」

 

まゆは小学校からの幼じみで、学校がある日は毎朝、俺の部屋に来ては俺を無理矢理起こしてくる。

まぁ、そのお陰で遅刻せずに済むんだが…

 

「今日、朝飯いらねーわ…」

「またぁ〜?あんた、それで勉強できんの?」

「余裕…じゃあ、行ってきます」

「えっ!ちょっと待ってよ〜!」

 

そう言って俺たち2人は家を出た。

外は晴れており、登校するにはうってつけの天気であった。

 

「ちゃんとご飯は食べようよ!」

「お前もお母さんみたいなこと言うなよ!」

「だって…ただでさえ健二くん勉強苦手なんだから…」

「うるせぇ!」

 

ホントに母親を2人持っているようだ。

まゆとは付き合ってはない。

別にこいつと関係を持とうとは思わなかった。

 

けど、こういう風にいつも2人で歩いていると付き合っている間違えられることが多かった。

 


「じゃあね!」

「あぁ…」

そう言って俺たち2人はそれぞれのクラスに入っていった。

 

俺は毎日、自分のクラスに入ることでやっと自分だけの時間が持てるような気がしていた。

 

教室に入ると真面目に勉強してる人もいれば、楽しく友達と喋る人、読書をしている人といつもと変わらない風景があった。

 

俺も窓側の自分の席に座り、いつも通りホームルームまでぼぉーと外でも見て、それから何となく授業をこなす、今日もそんないつもと変わらない学校…そうなると思っていた。

 

「桜井くん、おはよう!」

 

隣の席の菊池さんが挨拶をしてきた。

 

俺も「おはよう」と返すと彼女はニコッと笑って席に座った。

 

前から思っていたが、俺は菊池さんの笑顔にいいなと感じているようである。

 

まぁ、それだけで菊池さんにそれ以上の好意を持つことはなかった。

 

会話と言っても、この朝の挨拶くらいで他はお互い自分の友達と話すため、ほとんど会話することはなかった。

 

だから、菊池さんも俺に好意を抱くことはないと思っていた。

 

しかし、人が誰かを好きなるきっかけなんて、そんな大それたことが必要という訳ではない。

 

むしろ、ちょっとしたこと、毎日何気なくやっていること、そんなことぐらいで人は簡単に恋に落ちる。

 

例えば、

何気なくジャンプしてみたり、

何かを落としたから咄嗟に拾ってみたり、

消しゴムを貸してあげたりと、

そのくらいで人が恋に落ちるのには十分なのである。

 

菊池さんもそうであった。

 

この毎朝、何気なく交わす挨拶で俺に恋に落ちたようである。

 

それを知ったのは昼休みであった。

 

突然、菊池さんから呼ばれて俺は中庭に行き、そこで告白されたのである。

 

告白されたことは嬉しかったが、まだ菊池さんのことをあまり知らない俺は断ろうとしたが、それを知っていたかのように菊池さんはまずはデートからしてみませんか?と誘ってきた。

 

俺はそれに承諾して、今週末デートすることになった。

 


「おい!菊池が桜井に告ったらしいぜ!」

 

中庭という目立つところで告白されたせいか噂は瞬く間にクラスを超え、学校中に広まった。

 

クラスの友達も隣に菊池さんがいるのにも関わらず俺のところにきては冷やかしてきた。

 

俺は告白された側だからいいが、菊池さんの事を思うとなんだか可哀想に思えた。

もちろん、まゆもこの噂を耳にしていた。

 


帰り道。俺はいつもと同じようにまゆと下校していた。

 

「今日も学校、キツかったね!」

 

そう言う彼女はなんだかぎこちなかった。

 

何かをを隠しているような話し方をしていた。

長年こいつを見てきたから分かる。

おそらく俺が告白されたことに対してだろう。

そう思った時、まゆが俺のことを好意を抱いていることに気づいた。

 

「なぁ!」

「うん?!」

 

そう言って俺の方を向く、彼女の顔は強張っていた。

 

「知ってんだろ?今日のこと。」

「うん…知ってるよ!」

 

とまゆは誰でも分かるような作り笑いをして言った。

 

そして、続けて

「良かったじゃん!健二くん、いつも私しか女がいないと思ってたから少し安心した。」

 

「強がんなよ!」俺はそう思いながも、彼女には「そうか…」と返した。

 

それから俺たちは会話することなく、家に帰っていった。

 

 

 

日曜日。俺は菊池さんとのデートのために待ち合わせ場所へ歩いていた。

 

待ち合わせ場所に着くともうすでに菊池さんがいて、いつものように挨拶を交わした。

 

その時も菊池さんの笑顔はいいなと思った。

 

それから、俺と菊池さんは映画を観たり、ショッピングをしたりとデートらしいデートをやった。

 

そして、俺と菊池さんは夕食を食べることにした。

 

「えっ!?菊池さんって陸上部だったの?」

 

偶然にも中学の頃、同じ陸上部という話題で盛り上がり、時間はあっという間にすぎていた。

 

この頃には、俺は菊池さんといることが楽しいと思うようになっていた。

 

すると、菊池さんは急に真面目な顔になり俺にこう言った。

 

「いきなり告白してごめんね…あんな目立つところで告白したから桜井くんに迷惑かけたね…」

 

「いや、俺は全然大丈夫だよ!逆に菊池さんは大丈夫だった?」

 

「私は大丈夫だよ!桜井くんには迷惑だったかもしれないけど、私はあそこで桜井くんに告白したことは後悔してないよ!」

 

そう言う菊池さんの顔は優しく、そして幸せそうな笑みで俺はそれに少しときめいていた。

 

この人と一緒にいてもいいかなと思うようになっていた。

 

なんか俺にないものを持っていて、どことなく菊池さんに惹かれている俺がいた。

 

けど、それと同時にまゆの顔が浮かんだ。

 

それから俺たちはたわいもない話をしながら食事を済ませて、俺は菊池さんを送って帰った。

 


「明日、まゆに話そう…」そう思いながら俺は自分の家へと帰っていた。

 

そして、携帯を取り出しまゆに「明日会えるか?」と連絡した。

 

すると、数分後に「わかった」という返信が来た。

 

明日は祝日。

 

まゆに菊池さんと付き合おうと考えているってことを話すと思うと少し胸が痛んで、憂鬱に感じている俺がいた。

 


そして、翌日。

 

俺とまゆは近くの公園で会う約束していた。

 

俺はまゆより早く行こうと思い、約束の時間より10分早く行ったが、まゆはすでに公園にいた。公園のベンチに座るまゆを見て、俺は胸が苦しくなった。

 

「おはよう!」

「おはよう…」

 

そう言って俺はまゆが座っているベンチに座った。

 

まゆの目は明らかに腫れていた。

 

ベンチに座るとまゆが「昨日のデートどうだった?」と訊いてきた。

 

俺はいきなりそんな質問が来るとは思わず「えっ?」と驚くと、彼女は「その話でしょ?」と言って俺の方を向いて笑った。

 

俺は決まり悪そうに「うん…」と答えた。そして、2人の間に沈黙が起きた。俺は勇気を出してまゆに

 

「俺、菊池さんと付き合おうと思ってるけど…どうかな?」

 

と自分の想いを伝えた。

 

すると、彼女は俯きながら少し笑うといきなり立ち上がった。

 

そして、数歩前を歩いていピョンと飛びながら振り返りこう言った。

 

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「ダメーーーーーーー!」

 

 

 

 


もしこんなシチュエーションになったら、俺のチンコ切ってくれ!